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 絵を喜んでくれて自分も息子も良かったと思っていること。それを聞いた息子がならば、とまた絵を描いたこと。今度こそ礼がしたいので、何か望むことはないかということ。 驚くことに、息子と二人で暮らしていることや息子が今四歳であることなど、プライベートな事までそこには書かれていた。 「直樹くんかあ」  息子の名前も書かれていて、直人と一字違いである。 もちろん父親の直嗣から取ったものだろうが、直人は親近感を持ってしまった。 そして母親がそばにいないことにも。  絵に描けないほどに馴染みがないの事が、平気なはずはない。 保育園や幼稚園に行っているならば、周りと違うことに気づいているだろう。 小さな胸に、そんな複雑な気持ちを持て余してるのではないかと、他人事ながらに直人は心配になっていた。 「直嗣さんと、直樹くん」  そういえば直嗣はいくつなのだろう、と直人は考えた。 早めの結婚だったのならまだ二十代半ばか直人と同じくらいでもおかしくはない。 だが、ギフト券一万円分を送ってきたことや、几帳面に書かれた手紙を見ても、もう少し上な気がした。 「とりあえず、また返事書かなきゃ」  一度で終わらせるはずだった手紙のやり取りが、ひょんなことで続いてしまっている。 だが直人はそれを煩わしいとも面倒だとも、もう思っていなかった。
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