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子どものそれは、もはや涙声である。欲しいものがどうやらこのコンビニにはなかったらしい。 なだめているのは父親だろうかと思いながらも、直人は陳列棚を眺めた。 時間が微妙なだけに、陳列されている物も微妙だ。
肉にするかカレーにするか。それともここは手っ取り早くカップ麺にすべきかと悩む。
「やだぁぁっ」
その時、直人の足にとん、と軽い衝撃が走る。
足元を見ると、小さな子供がうずくまっていた。
「大丈夫?」
まさか怪我はしていないだろうとは思うが、とりあえず直人は優しく声をかける。
だが子どもはふるふると肩を震わせ、うずくまったまま何も答えなかった。
「すみません」
すると、先ほどから聞こえていた、父親らしき男の声が聞こえてきた。
顔を上げると、そこにはスーツの上からコートを羽織ったイケメンがいた。 直人の職場も、顔で選んでるんじゃないかと疑うほどにそれなりにいい男が揃ってはいるが、それとはまた種類の違うイケメンである。
ピンストライプの紺色のスーツは三つ揃いで、細身ではあるがその胸板にそれなりに筋肉がついてることが服の上からでもわかるバランスのいい体だ。 手脚がスラリと長く、一番上にある顔も小さくて、まるで雑誌からそのまま出てきたモデルのようだった。
「ご迷惑をかけてしまって申し訳ありません」
いくらか低いテノールは、耳に心地よい。
「大丈夫ですよ」
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