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「あの……?」  男がずいと直人の方へ足を進め、子どもの手を取ろうとその腕を伸ばしている。  それに気づいた直人は、慌てて子どもから離れた。  顔見知りでもないのにいきなり名前を呼ぶなど、不審者に間違われてもおかしくないということに気づいたのだ。  男が訝しげな顔で、子どもと直人の間に体を挟もうとした。 「あ、あの、違います。直人です。辻、直人」  直人がしどろもどろに名乗ると、今度は男の方が挙動不信になった。 「辻……え? 辻さん? あの?」  男が足元の子どもと直人を見比べ、困惑している。  ただ、子どもだけがしっかりと状況を把握していた。 「なおと? なおとおにいちゃん?」  立ち上がってそう直人に尋ねる。 「う、うん。絵、たくさんありがとうね」  まさかこんなところで出会えるとは思っていなかった直人は、それでも笑顔で答えた。 「なおとおにいちゃんだあ。ぱぱ、おにいちゃんだよっ」  男の方はまだ混乱しているようで、戸惑いぎみに息子の声を聞いている。 「えっと、いつもお世話になっております」 「こ、こちらこそ」  と、お互いがとんちんかんな挨拶をしあっている所に、「あのー」と、第三者からの声がした。     
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