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サイズの合わないピザ屋の制服を着た青年が、直人の顔も見ずに商品を出そうと黒いバッグに手をかけた。 その手も鼻も、やはり真っ赤だ。
「違います」
ピザ屋のロゴのはいったキャップを目深に被った青年に、ハッキリと伝えると、青年の手がピタリと止まる。 だが何を言われたのかわからないという表情で、今度こそ直人の顔を見た。
「……は?」
客商売なのに、は? はないだろうと思いながら、直人は同じセリフを繰り返した。
「違います」
「……商品が?」
受け取ってもいないのにそれはないだろうと呆れたが、直人は鼻の赤い男の吐く息が白いのを不憫に思い、今度は言葉を添えてやった。
「届け先が違います。うちでは頼んでませんよ」
「え……? でも、辻村さん……」
まだでも食い下がる男に、直人は心底申し訳なさそうに首を横へふった。
「辻、です。俺の名前」
「えーと、サン、タフェⅡの、辻村様……」
「サンタフリーⅡ、の辻。です」
「ええっ?!」
わたわたと名前と住所が印字されているであろう伝票と、直人の顔を見比べる青年に、直人はため息をついた。
「サンタフェⅡって、このもうひとつ先の路地を曲がった所に確かありますよ。そこじゃないんですか?」
「ええぇっ」
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