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「実は、いつも食器はそのまま水につけておいて仕事をしてしまうんです。ーー助かりました」  直嗣はぽりぽりとこめかみをかいて苦笑した。 そんな男の仕草がずいぶん可愛らしく見えて、直人はぷっと噴き出した。 「仕方ないですよ。直樹くんの世話とお仕事もあって、家事までやるのは大変ですから」  すると直嗣が穏やかな顔になる。 「……直人くんは優しいですね」  整った顔で微笑まれ見つめられるから、直人はどぎまぎしてしまう。 「そんなこと、ないです」  思わずどもってしまい、直人はかあーっと顔が熱くなるのを感じた。職場ではどんな美男美女、例え国民的な芸能人などに会っても、仕事として割り切ってるからか、こんな風にどぎまぎすることなどないのに。 「あ、あの、今日はありがとうございました。また明後日の夕方お邪魔します」  直人は誤魔化すように慌てて頭を下げ、ダイニングに置いていた荷物を急いで手に取った。そして直嗣の前をちょっと緊張しながら玄関まで歩く。  靴を履き、後ろを振り返ると、框の分だけ目線の高くなった直嗣が、穏やかな口調で話しかけてきた。 「三時過ぎなら直樹も帰ってきてると思うので、良ければまた夕食を一緒にとりましょう。今度こそ手料理を振る舞えると思うので」     
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