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加納がほうきを持ってきた時には、すでに大方のかけらは拾い終えていた。すばやく加納が辺りに散らばった小さな破片を集める。空の皿だったために濡れる事もなく、案外片付けは簡単に終わった。
フロアから出る前に、もう一度頭を下げ、ゴミと化した物を裏へ運ぶと、そこには先に引っ込んでいた相澤が立っていた。
「すみませんでした」
どちらが悪いにせよ、ひとこと謝っておかないと、と直人がそう言って頭を下げると、驚くことに相澤はキッと直人を睨みつけてきた。
「ちゃんと確認してよね。お客様にぶつかってたらどうするのよっ」
強い口調で責められ、直人は確認しなかった自分が悪いんだと、素直にもう一度深く頭を下げる。しかし、相澤はそれでは気が済まないのか、腕を組んでさらに詰め寄ろうとした。
「おーい。そういうのは後にしろ。もう客が帰り始めてる」
止めに入ったのはほうきを持った加納だった。
さすがに先輩の前で偉そうな態度はとれないようで、相澤はしぶしぶ腕組みをやめ「はい」と返事をする。だが、直人を見る目は厳しく、通り過ぎざまにも小さく「信じられない」と憎々しげに言い残して行った。さすがにそこまで責められて、気落ちしないわけがない。直人は暗い顔のまま、加納に小さく頭を下げてもう一度謝る。
すると加納は苦笑しながら直人の肩をぽんと叩く。
「そんな顔で客の前に出るなよ? それにおまえだけが悪いわけじゃない」
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