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「おまえくらい相澤も殊勝なら、可愛げあるんだけどなあ」  苦笑した加納が肩を竦めると、直人は思わず素直に頷いていた。そしてすぐに今のは同意すべきところじゃなかったと気づき、慌ててフォローする。 「いえ、相澤さんはたぶん、仕事に人一倍厳しいというか、神経質なだけだと……」 「自分に厳しく他人にも厳しいって? まあ、間違いじゃないけどなあーー」  さらに続けようとした加納を、今度はフロアの方から顔を覗かせた新人スタッフが呼び止めた。 「あのー、加納さん。厨房の方が呼んでらっしゃいますが……」 「おっと、やばいな。ゆっくりし過ぎた。辻、おまえも早く戻れよ。あ、とりあえず鏡で顔チェックしてからな」  慌てて持っていたほうきをロッカーへ直し、にやりと直人に笑いかけるとさっさと行ってしまう。 「顔……そんなに酷いのか?」  直人もゆっくりはしていられないと、急いでフロア手前の事務所の壁にかけられた鏡で自分の顔を見た。目元がほんのり赤くなってはいるが、加納と話したことで気持ちはずいぶんと落ち着いていた。 「大丈夫っ」  鏡に映る自分へ向かってそう言うと、直人は襟を正して再びフロアへと足を向けたのだった。
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