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 さすがに疲れたなあと、レストランでのあれこれを思い出しながら直人はロッカールームを出た。  廊下はやはり薄暗く、ひんやりとしている。  遅番の時は二十三時過ぎることも多く、働くスタッフのほとんどはすでに帰宅していて、挨拶を交わす相手もいない。  しんと静まりかえったコンクリート壁に囲まれた階段に、ことさら自分の足音が響き、直人の疲労は増した。  階段を降りきり、重い扉を開ける。  タイムカードを押して早く帰ろうと顔を上げると、そこにはたった今カードをきった相澤が立っていた。 「――お疲れ様でした」  先に気づいた直人が頭を軽く下げると、相澤はちらりと視線をよこしただけでそのまま歩いて行ってしまう。直人は小さく溜め息をつくと、自分のカードをタイムレコーダーへ通した。  どうしてあんなにも邪険な態度を取られるのか、まったく直人にはわからなかった。  誰に対しても厳しいところはあるが、ことさら直人にはあたりが強い気がしていた。そんなことを加納辺りに相談したとしても、気のせいだと笑われるのオチだろう。だから直人もそう思うことにはしているのだが、さすがに仕事で失敗した後だと堪えるなと直人は肩を落とし歩き出した。  時間が時間なだけに、終電に間に合うよう早足に駅へと向かう。これがまた一日忙しい日だったりするとかなりキツいのだが、今日はどちらかといえば精神的に参っているので、直人はがむしゃらに走りってすっきりしたかった。しかしそれほど多くはないとはいえ、歩道にはぽつぽつと人が歩いている。さすがにこんなところで走っては迷惑だと考えれる程には理性が働き、そのことがさらに直人を憂鬱な気分にさせていた。
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