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二度目とはいえ、やはり場違いな気持ちを抑え込みつつ、直人はカウンターの中にいるコンシェルジュに声をかけた。
「辻様ですね。伺っております。あちらのエレベーターからお上り下さい」
完璧な笑顔と、どんな相手でもそつのない態度で接してくるコンシェルジュの姿に感心しつつ、直人は以前も使ったエレベーターに乗り込んだ。
このマンションにはどうやら止まる階数の違うエレベーターが複数あるようで、知らなければロビーで迷ってしまいそうな贅沢な造りになっている。
辻村が最上階のVIPでなくて良かった、などと失礼極まりないことを考えながら、無音で数字が変わっていくだけの機械の箱の中で、直人はふうっと深呼吸をした。
昨夜のことがまだ尾を引いていて、朝から職場で表情が暗いと注意までされたほど。なんんとか笑顔を張りつけてこなしたものの、終わった時には昨日の比ではないほどに疲れていた。
こんな日に直樹と顔を合わせても大丈夫だろうかと心配だったが、約束を破るわけにはいかないと帰宅後に慌てて準備して出てきたのだ。
直樹の待つ部屋の前で、直人はもう一度深呼吸をして気を引き締める。
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