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 昨今の郵便事情というのは素晴らしい。 直人は心の底からそう感心した。  昨日今日と、まさかの二日連続での食券百二十枚という嵐の到来で、身も心もくたくたになった直人を出迎えてくれたのは、もはや楽しみになりつつある辻村からの手紙だった。  几帳面な性格らしい相手に、半ば確信犯的に返事を待っていたのだ。  メールボックスを開け、見たことのある封筒を見つけた直人はにんまりと口元を緩める。それだけ彼の息子の絵は直人の心を鷲づかみにしていた。 「今日は何かあるかな?」  直嗣の手紙ももちろんだが、息子の絵が入ってないかとまず確認してしまう。  こたつに座り封を開けた直人は、望んだように二枚目が絵であることに気づき、ほっとなごんだ。 やはり絵の下に一言。 『今度は私と息子の絵です』  もしかしてと思っていた直人の予想は当たっていたようで、そこに母親の姿はない。  子供は正直なため、家族の絵を描くときはいつもそばにいるものを描く。 少なくとも身近に母親がいないということだろう。  絵をひとしきり眺めたあと、直人は一枚目の手紙を手に取った。  冒頭は『辻直人様へ』から始まっている。     
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