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フロアは客のひそかな話し声がさざなみとなってその空間を一時、忙しないものに変えていた。
「ドリア、三番にお願いします」
「はい」
「サーロイン2、十五番テーブル」
「わかりました」
加納が出来上がった料理を他の者に次々に采配していく。
「辻、マリネ、七番に」
「はい。わかりました」
直人は明るく返事をして頷いた。
「お待たせいたしました。シーフードマリネでございます」
テーブルの間をぬって七番テーブルにたどり着くと、料理の皿をのせたトレイを左手に持ち、軽く手を上げた女性客の左側からゆっくり音をたてないように皿を置く。
「わ、きれい」
思わずといった様子で呟かれ、直人の口許に微笑が浮かぶ。 自分が作ったわけではないが、料理を褒められれば単純に嬉しいものだ。
「ごゆっくりどうぞ」
直人は一礼し、その場を離れる。そしてぐるりとフロアを見渡し、水の入ったグラスや料理の減り具合などをチェックする。
すると、三人で座っているテーブルの客が手をあげているのを見つけ、足早に近づいた。
「お待たせいたしました」
「コーヒー、もう持ってきてくれる?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
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