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とまるで女性警察官のように言うと。彼は一目散に逃げ出した。彼が走ると、私も反射的に彼を追いかけて、何キロ走ったかわからないが。とにかく走った。走って走ってやっとのことで彼が止まると。そこは薄暗い路地裏だった。そこで彼は段ボールで出来た犬小屋のようなところで止まって私に話かけてきた。
「俺の家はここなんだよ、あのババアの家よりもずっと汚いし狭いし寒いんだ」
「だから、落ちた金を拾ってもいいだろ。天からの施しだろ」
彼はそれを当然そうだといわんばかりにいう。
「そんなことはかんけいないです。落ちたものは、本人に渡しなさいよ」
「あのババアはもうどっかに行っちまったよ。」
「だったら交番にとどければいいじゃない。私が届けてあげるから財布を渡しなさいよ」
「お前が交番に届ける保証なんてあるのか、ないだろう、いいから早くあきらめろよ。めんどくさい。こっちは疲れてるんだよ」
こっちのセリフだ。なんなんだこの男は。
私は彼を説得するのを諦めて、強引に財布を取り返そうとした。すると、彼も抵抗してきて財布をつかんだ私の手を振りほどいた。その力強さに私は恐怖を感じた。
財布泥棒はやせ細ってはいるけれど三十代くらいの成人男性で私は女子大生なんだ。
私が躊躇したのを彼も感じたのか、必死だった彼の表情は次第に緩んでいった。
「もういい加減やめにしようや、そうしないとあんたが後悔することになるぞ」
彼は大人の余裕を醸し出しつつ憐れむように言ってきた。
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