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私は辿々しいながらも『半生』を語った。こうして口に出してみてもマジしょうもない四十年やったわぁと辟易としていたところで……。
「フフン」
と小馬鹿にした笑い声が聞こえてきた。確認しなくても分かる、Aだ。確かに夢に溢れた美しい人生には程遠いと思う。はっきり言って地味だ、暗い。それでもここまで生きるのはそれなりに大変だったんだ、笑われる筋合いはない。
「誰です? 笑い声が聞こえましたが」
講師の耳のもそれが届いていたようで、受講生たちをぐるりと見回している。多少動きのあった空気がピタリと止まり、当然だが誰一人反応しない。Aは少し俯き加減でその場をやり過ごそうと息を潜めている風だった。
「どうもありがとう、ここまでよく頑張りましたね」
講師は上っ面な労いの言葉を掛け壇上に戻った。私は一礼してから着席し、その後講義そのものはスケジュール通り淡々と進んでいった。
私の『半生』は結果的に鼻で笑われた訳だが、何故か全く悔しいと思わなかった。それなりにスピリチュアルや心理学を独学ながらも勉強したのが功を奏したのか、寧ろ『勝った』と思った。
どんなにきらびやかで自分らしく伸び伸びと生きていようとも、他人の生き様を見下した時点でそいつの負けだ。私は表面上大人しそうな女を演じつつ、腹の中ではほくそ笑んでいた。
アホやであいつ、腹の中で笑うておけば済むものを──。
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