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「おい、雪ん子ゆきこ」
あたしはクレヨンを用意する手を止めて、晃ちゃんに向き直った。晃ちゃんはいつも突然命令する。だからこんなのは慣れっこだった。
この日はあたしが晃ちゃんの家に遊びに来ていて、晃ちゃんの「お絵かきしようぜ」の一言で、スケッチブックとクレヨンを戸棚から引っ張り出す途中だった。
「なぁに?」
早くお絵かきしようよ、と訴えるように、手元のクレヨンに視線を落としながら答えた。
でもそんなの晃ちゃんが気づくはずがない。お構いなしに、あたしの腕をぐいっと引っ張った。途端にパラパラと床に落ちるクレヨンたち。
「あーあ、箱にもどさなきゃ」
散らばったクレヨンを拾い集めようと手を伸ばすも、腕を晃ちゃんにガッチリ掴まれているため届かない。
「もう、晃ちゃんってば──」
「おい!」
晃ちゃんは、眉根に精一杯力を込めて、思い切り凄んでみせた。当時のあたしはそれが怖かった。
「な、なに……」
「雪ん子ゆきこ! おまえ、クレヨンは白以外つかっちゃだめだからな!」
晃ちゃんは白以外のクレヨンをかき集めると、ふんぞり返ってそう言った。
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