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しかし、私の移動距離とあの生き物の一歩は明らかに差があった。勿論、一歩の方が大きい。つまり私の願いとは逆に距離は縮まっていくばかりだった。恐怖は積もっていく。どうしよう、火とか吐いたら死んじゃう。踏まれたら潰れちゃう。噛みつかれたら食べられちゃう。やばい。死んじゃう――
もうダメだ――と思ったそのときだった。また一陣の風が吹いた。今度はさっきのような強い風ではなく、不安を吹き飛ばすような優しさのある風だった。
「最悪。誰もいないと思って結界張ったのに、意味ないじゃない」
声は前から聞こえていた。私は正面を見た。
緑色の髪が風になびいている。
「仕事の難易度上がっちゃったわ」
女がいた。後ろ姿と緑色の髪が心惹かせる女性――その人は私とあの生き物の間に立った。そして、それが当然の行動であるかのように颯爽と前に進んでいく。
「はああああああああっ!」
髪の美しさとは正反対な雄叫びを上げながら、武器――槍を振り回した。後ろからでは具体的にどんな風に動いているのか分かりづらいが、戦っているように見える。声を上げながら槍を振っているが、どれも当たらない。あの生き物は巨体ながら俊敏に動いているらしい。
やがて、そいつは翼を広げて空に飛んだ。女は下から槍を突き刺すように動かすが、やはり当たらない。
「もう、面倒くさいわね!」
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