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女は赤い正方形の紙を取り出して、やつの体に放った。しかし、抵抗できたのはここまでで、あの生き物は翼をバサバサと動かして空高く飛んでしまった。ある一定のところまで行くと、壁に突き当たったように跳ね返されたが、それを破ってどこかへ行ってしまった。
女は槍を下ろして、こっちに来た。あまり気分のいい顔ではなかった。あの生き物をとり逃がしてしまったからだろう。
私は彼女が戦っている間、動くことができなかった。あの生き物に圧倒されてか、急激な状況の変化についていけなかったのか、今では分からない。戦っていた女が私に声をかけるまで、悪い夢でも見ていたかのような感覚に陥っていた。
「怪我はないかしら」
女は私に手を差し伸べた。
綺麗な緑色の髪。それと同じ色の澄んだ瞳。さっきまでの雄叫びが嘘のような美しさだった。しかし彼女の服装は鮮やかさとは縁遠い暗い配色の服だったが、露出している腕や脚は透き通るような色をしていた。
私は女の手を取った。一瞬ふらっとしたが、ちゃんと立つことができた。
「あ、ありがとうございます」
「驚いたわよね。でも大丈夫。近々終わるわ」
女は槍を背中にかけられたケースに収納して、さっきと同じような赤い紙を出すとたくさん空にばらまいた。そして、別れも告げずに私の家とは反対方向に歩き出した。
「ちょっと待って下さい!」
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