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私は引き留めた。こんな状況で何か知っているであろうあの女と何もなかったようにお別れするなんて、普通はできないだろう。不可思議な今が一体どんなことになっているのか、少しでも知らないと気が済まない。やっと恐怖心が和らいで、引けた腰も治って、ようやく出た質問がこれだった。
「……あなた、誰ですか?」
そんなことが聞きたいんじゃない。今起こった出来事についての説明がほしいはずなのに、私の口はそんなことを言っていた。しかし、それを聞けば何かしら分かるだろうと後から思った。だから女が答えるのを待った。
「私はセリーヌ・クーヴレールだけど」
返ってきたのはそんな答えだった。
「が、外国の方?」
「うーん、まあ、あなたから見ればそうなるのかしらね」
「こ、これからどちらに? 観光ですか?」
「そんなわけないでしょ」
そんなわけない。この状況で観光だったら、めちゃくちゃ怖い。
女は言う。
「さっきのドラゴンを追うのよ」
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