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一通り知識を蓄えたあたりで時計を見てみると、授業まであと五分を切っていた。まだまだ気になることがあるけれど、ここは高校生として授業を受けなければならない。私は本を閉じて、カウンターで借りる手続きをして図書館を出た。
地下の洞穴を住処にしている、とか書いてあったっけ。でも、昨日遭ったのは公園だし、そもそもこの辺りは都心部とまでは言わなくても、田舎ではないから山もないし、洞窟なんてあるわけがない。
教室への廊下で、またそんなことを考えていた。
「あなたが詳しく知る必要はないわ」
綺麗な声がした。そして同時に横から冷たい外気が流れ込んできたのを感じた。そっちを見てみると、いつも閉まっている窓が開いていた。しかしそれよりも、私は風になびく緑色の髪に目がいった。
「セリーヌ・クーヴレールさん?」
「ええ。昨日ぶりね、お嬢さん」
彼女は靴を履いたまま廊下に入ってきた。そして、私が脇に抱えていた本を取り上げた。
「ちょっと!」
「ドラゴンを探るのは私の仕事よ。あなたには関係ない」
「いいじゃないですか。ちょっと気になっただけなんですから」
「まあ、その程度ならいいけど」
彼女はドラゴンにも似た鋭い目をした。抑圧的な目だ。
「深入りはしないで」
「え?」
今にも刺されそうな目。
「あなたと私たちは違う。違う世界の住民なの。こっちの世界に足を踏み入れないで」
――いや、刺そうなんていう目ではない。突き放す目だ。
「……はい」
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