3人が本棚に入れています
本棚に追加
目の辺りをハンカチで拭う彼はそんな反応をした。ただの呼び名だけど、妙に気になっていた。今日だって名前で呼ばれなかった。昨日の告白だって、呼び名は『委員長』だった。どうして呼び始めたのか、どうして名前で呼ばないのか、まあ正直どうでもいいところではあるのだが、興味はあった。
「いや、別に意味ないならいいんだけど。ちょっと気になったっていうか……」
「俺が副委員長だから」
「え……え?」
「だから、俺が一年五組の学級副委員長で、お前が学級委員長だから『委員長』」
まあ、そうなんだろうけれど、どうしてその呼び名を呼んでいるのか……いや、それよりも私は――
「名前で呼んでよ。『委員長』じゃなくて私の名前で呼んでよ」
それが一番やってほしいことだった。
桐生陽菜――私にはそんな名前があるのだから。
「そうだよな。お前は名前で呼んでくれてるもんな。悪かったな」
「謝らないで。図々しいこと言ってるのは私なんだから」
「図々しいなんて言うなよ。友達が名前で呼び合うのは普通だぜ」
南雲くんがこっちを向く。少し目が赤い気がするけれど、寒さのせいということにしておこう。
「そうだよな、陽菜」
陽菜――!
私の名前で!
なんかそう呼ばれると照れ臭いけれど、こうなれば私も言ってあげないといけない。
「一斗くん、これからもよろしくね」
こうして私の奇妙な物語は終わった。いや、これから始まるのかもしれない。出遭って、別れて、出会ったのだ。
私の物語は終わった。
そして、私たちの物語は始まりを告げた。
最初のコメントを投稿しよう!