第2章 私の出遭いは突然で

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 今日は時間があるしいい天気だけれど、やめておこう。先生に頼まれた大掃除の件がある。それが片付いたらまた本でも読もう。ちょうど好きな作者の新作が発売されたばかりだ。三年ぶりの新シリーズというので、とても気になる。その作者はデビューしてから今までの十五年間、全部で二十作ほどの小説を執筆している。だが、単行本が得意な作家さんなので、シリーズは過去に二度、冊数にして八冊しか出していない。私は二十の作品を全て読んだが、やはり単行本の方が面白い。シリーズ本ももちろん面白いのだが、どうも同じ設定で違う作品を書くというのが不慣れな感じだ。作品作りというのをしたことがない私がこんな批判をするのはいささか行き過ぎた行為だろう。よし、ではこれだけ言っておこう。あの人が書く作品は傑作!  そんな風なことを考えながら公園を歩いていた。だからこそ、異常な状況にずっと気付けなかった。異常というか、不思議。なんとも思わないくらい当たり前だと思っていた景色が、不気味に感じた。私はその異様な気持ち悪さに出口付近で来た道を振り返った。そして私の感じた異常は、驚きと恐怖に変わった。  誰もいなかったのである。  昼間の市立公園に人がいない。毎日通っていればそんな日もあるだろうが、そんな理由で納得できない気持ち悪さが胸を締め付けた。誰もいない――誰も寄せ付けない。そんな風に感じた。しかし、こんなのは所詮、私の感覚に過ぎない。きっとたまたま人がいないだけだ。気にすることなんてない。それにそんなことで立ち止まっている暇はない。私には先生から任された大切な仕事があるのだ。  さあ、帰ろう――と足を動かしたそのとき。周りの音が掻き消えるほどの突風に(あお)られた。気付けば十数メートルほど飛ばされていて、持っていた鞄が手元になかった。体には落ち葉や小さな木の実が体に打ちつけられて痛かった。風はすぐに止んだので、ゆっくりと目を開け、起こった状況を確認した。     
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