聖母被昇天の大祝日、八月十五日を控えて

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 燃えている飛散弾体片が、瓦のすっかり吹き飛ばされた二階の屋根にめり込む。緑が生まれ育ち、夫の隆と結婚して以降も住みつづけている森山の屋敷は、爆風で潰されて燃えはじめた。  木の焼ける音と臭いで目を覚ますと、緑は竈が天井を支えているお陰で保たれた空間に収まり、尻餅をつかされていた。あたりは暗いが、頭から流れる血で滲んだ視界は、火の明かりで赤く照らされている。落ちた天井と台所の土間の隙間に、投げ出された家財道具や折れた障子などが散らばっていた。足もとに隆の弁当箱とフライパンが転がり、釜がひっくり返っている。夫婦茶碗が揃って割れていた。 (家が爆弾の直撃ば受けたとやろうか。ばってん、あの凄まじかった閃光は……まさか、広島ば壊滅させたていう、新型爆弾じゃなかろうか? そがんやったら、あの人のおらす大学病院もやられとる)  緑は、生き埋めになった我が身より、白血病を患いつつも物理的療法科(レントゲン科)部長として、かつ一医者として任務に励んでいる夫を案ぜずにはいられない。 (マコトとカヤノは、三山木場の借家に疎開させとる。いくら新型爆弾ていうても、六キロも離れとれば、やられとりはせんに違いなか。おばあちゃんもついとるけん、子どもたちは大丈夫。まずは、あの人ばい。とにかく、ここから早く脱け出して、大学病院にいかんば)     
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