聖母被昇天の大祝日、八月十五日を控えて

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 青銅の聖イグナシオ像、金の指輪に彫り込まれたイエズス像、教会暦、かつての信者名簿、キリシタン古文書、マリア観音像、ロザリオ南蛮数珠なども保管されているという。  隆は、浦上カトリックに密かな憧れを抱いている。森山家に下宿することを、いよいよ諦め切れなくなった。  翌日曜日、イエズスが死者の中から復活したという大祝日の夕方に、隆は再び森山の屋敷にやってきた。押しかけてきた。蒲団や枕と身のまわりの品を積んだ大八車を引いて。  浦上カトリックは、「御復活」を一番大きな祝日としている。運命的なものを感じた貞吉は、くしくも聖金曜日につづいてやってきた大学生に、天主堂と金比羅山が見わたせる屋敷二階の南東の六畳間を貸し与えた。森山家は、晩に祝いの浦上料理を隆に馳走した。この後、三年にわたって下宿人の改宗のために祈りつづけることになる。  昭和七年三月、隆は溶血性連鎖状球菌による重篤な急性中耳炎と診断された。大学病院で緊急手術を受けた後に死線をさまよい、その間ずっと緑に付き添ってもらった。同年のクリスマスの大祝日の夜に、緑は腹膜炎を起こす可能性のある急性虫垂炎を患った。長崎医科大学で放射線医学専攻の助手となっていた隆に、緊急手術の手筈を整えてもらい、牡丹雪の降る中、背負われて大学病院に向かった。二人の距離は、徐々に縮まっていった。     
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