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「ここなんだ……?」
ふいに声をかけられて、莉子は驚いた。
いつのまにか親友の愛媛がすぐ隣に立っている。
「ここが、事故の場所?」
微笑みながら愛媛が聞いてくる。彼女とは事故の後に知り合ったので、愛媛は莉子の話でしか勇進のことを知らない。
「そう、ここ。ほら、まだ道に、うっすらタイヤの跡があるでしょう?」
この3年間、莉子は何度もこの場所を訪れた。
はじめの頃は、道端に花やお菓子が供えられたりしたが、最近はもう、誰もここで立ち止まったりしない。
先程から何台もの車が通り過ぎて行くが、道端に佇む莉子を気にとめる人はいないようだ。
今でもこの場所に特別な感傷を持つのは、おそらく莉子と勇進の家族くらいなのだろう。
大きくカーブしたブレーキ痕も、ずいぶん薄れてしまった。
「待ってるの?」
愛媛が優しく細めた目で、莉子を見た。
無駄だとかもうやめなよとか、否定的な言葉で莉子を傷つけるつもりはないのだ。愛媛はいつも優しい。
勇進のいない日々のほとんどを、莉子は彼女と過ごした。
「……うん。だって、ここで待ってれば、会えるかもしれないから……」
この場所に幽霊が出る、という噂は、事故の直後からあった。片田舎で死亡事故の起きた場所なら、どこにでもそういう噂はたつものだ。
それでも半年前、バイク事故で死んだ高校生が血まみれでぼんやり立っているのを見たというタクシー運転手が現れると、噂はあっという間に広がり、心霊現象見たさの心ない人たちが肝試し感覚で事故現場を訪れるようになった。
一縷の望みに縋るように、莉子もこの場所に頻繁に足を運んでいる。
勇進にもう一度会いたいからだ。
「会ってどうするの?」
愛媛に聞かれ、莉子は苦笑した。
「どうもしないよ。どうにも……できないでしょ。ただ、会いたいだけ。もう一度顔が見たいの。でも……そうだな、もし先輩に会えたら、ありがとうって伝えたいな。それと……ずっと、大好きだよって」
「そっか…… 」
「……おかしい?」
「全然。てゆうか、うらやましいよ。莉子はほんとに勇進先輩が大好きだったんだね」
いつまでも過去にとらわれずに現実を見なさいとか、莉子自身が一番わかっていることを敢えて言わない優しい愛媛のことも、莉子は大好きだ。
愛媛は「どうせヒマだから」と言って、何もない道端で何時間も莉子につきあってくれた。
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