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莉子はなぜかその一本道の付近から離れることができず、気がつくと事故現場から300メートル離れたところに戻っている。
そこがホームだと定められたようだった。
はじめは毎日事故現場に足を運んだが、訪れる人が減るにつれ、莉子もホームのあたりでふらふらと過ごす時間が増えた。
1年経っても2年経っても、勇進は来なかった。莉子の命日にも。誕生日にも。
親友になった愛媛のアイディアで、霊感の強そうな人の前にわざと姿を現して幽霊が出るという噂を立てても、勇進は莉子に会いには来なかった。
その勇進がやっと、3年経ってやっと、会いに来てくれたのだ。
勇進はゆっくりした足取りで、先程まで莉子が座っていた大きな石のところまで行き、持っていた花束をそっと手向けた。
その石は直線道路にある事故現場の目印のようになっていて、皆お供えものをそこに置いていくのだ。
勇進は静かに合掌して、目を閉じた。
「莉子……ごめん…… 」
懐かしい低い声。
3年ぶりに勇進の声を聞いて、莉子は胸が震えた。
この日をずっと待っていた。
勇進は莉子のすぐ目の前だ。見上げる顔の角度さえ懐かしい。
勇進に莉子の姿は見えていないようだ。
どうしたら伝えられるだろう。
ありがとうって。
ずっと大好きだよって。
私のことはもう忘れて、どうか幸せになって……って。
莉子がアドバイスを求めて愛媛を見ると、彼女は勇進の車の方を見つめていた。
つられて目を向けると、助手席に誰か座っている。
夕暮れ時で見えにくいが、長い髪と紅い唇で、女性だということはわかる。見覚えのある顔だった。
(誰だっけ……?)
肉体を失って3年、記憶は日々曖昧になっていく。
莉子が記憶の糸を辿っていると、助手席の女性が車窓から身を乗り出した。
「勇進! まだぁ?」
イラついたような声に、莉子の記憶の引き出しが一気に全開した。
幼馴染の香苗だ。
香苗は莉子の家の近所に住んでいて、小さい頃は毎日のように一緒に遊んだが、次第におっとりした莉子を家来のように扱うようになった。
顔立ちがよく、利発でハキハキした香苗は男女ともに人気があった。大人にも受けが良かった。
でも莉子は知っている。香苗が本当は陰湿な性格であることを。
なぜなら中学に入った頃から、莉子はずっと香苗にいじめられていたからだ。
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