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 お客様の爪の健康状態をチェックするのも、ネイリストの大事な役目だ。顕著な異常が見られる場合は、医療機関への受診を勧めることもある。顔に見間違うほどの症状が爪に出ているのならば、施術をお断りせざるを得ないだろう。 「でも実際、病気で辞めちゃう人が続出しているって」 「それは奇病とかじゃなくて、ただのストレスでしょ?」  人気の職業ではあるが、この道で食べていくのはなかなかにハードだ。博香さんの同期でも、辞めていったネイリストは数多くいる。 「エミリちゃんも、何かあったらちゃんと相談してね」  新人の彼女が頑張りすぎて無理をしないようにと、博香さんは助言して、その日の雑談は終わった。  それから数日後のことだ。 「博香さん、大変です」  博香さん専用の施術室をノックしたのは、真っ青な顔をしたエミリさんだった。 「どうしたの?」 「来たんです。爪に人の顔があるお客さんが」 「は?」  博香さんは、以前雑談の際に出た噂話を思い出す。 「爪の変色? トラブルの対処もスクールで習っているでしょう? 冷静に対処して」 「でもお客様は、そんなの見えないって言うんです。だけどいるんです。左手の親指の爪に、男の顔が……」  涙目で訴えるエミリさんを放っておくわけにもいかず、博香さんは問題のお客様のカウンセリングに同席した。しかし、博香さんが見ても爪には特に異常は見られない。  当のOLさんらしき新規のお客様も、一体何が問題なのかと不思議そうな顔をしている。
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