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「異常はないわよ。ちゃんと施術してさしあげて」
小声で指示をするが、エミリさんは
「でも……」
と、納得しない。
「プロでしょ? 責任持って仕事して」
常連の上客の予約時間が迫っていた博香さんが、少々きつめに言い放つと、ようやくエミリさんは弱々しく頷いた。
翌日、エミリさんは欠勤した。
その後も「具合が悪い」から始まって、「熱がある」、「吐き気がする」と休みは続き、最終的には
「爪が、息苦しいんです」
などと言いだした。
尋常じゃない様子に、博香さんはエミリさんのアパートを訪ねた。
「どうしよう、博香さん。アイツ、私の爪に乗り移りやがった」
ボサボサの髪に乱れたパジャマ、酷い身なりのエミリさんが、血走った目で両手を突き出して爪を見せてくる。しかし、博香さんには何も見えない。
「ほら、見えるでしょ? ここに男の顔が。こっちには女の顔が。ここにも、ここにも」
「エミリちゃん、落ち着いて」
幻影でも見えているのか。明らかにエミリさんは、精神的に追い詰められているかに見えた。
心配した博香さんは、エミリさんの親御さんと連絡を取り、間もなく彼女は実家へ引き取られていった。
だが、それだけでは終わらなかった。
「血だらけの生爪が、送られてきたんです」
差出人は、エミリさんだった。
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