第三章 王国の人々

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 壁画だけが存在するこの構造は、つい先程経験したばかりだ。 「また自慢部屋巡りかよ。何回やる気だ」  壁の浮き彫りを見てウンザリする蒼一の袖を、メイリが引っ張る。 「反対にも絵があるよ」 「あれ、本当だ。同じ絵が二枚……」  勇者の業績を讃える間とは、もう一つ違いがあった。  次へ進む扉が、正面に二つ存在するのだ。 「どっちでもいい。適当に選ぼう」 「……待って。この二つの絵、ちょっと違うよ」 「ん? ……ああ、本当だ。メイリ、冴えてるな」  どちらも勇者が雷鳴剣を振るうシーンが描かれ、その雷から魔物が逃げている。 「右は、あー、イノジンが酷い目に遭ってる」 「左はイモジンが虐められてます」 「まさかこれ、記憶力テストか」  三番目の勇者は当然、自分のことだから覚えているだろう。  しかし、十八番目の勇者は、この手のクイズがかなり苦手だった。 「……イモジンだと思う。電気が効くし」 「イノジンですよ。最初のやつだし、よく覚えてます」  勇者と女神の意見が割れたため、決定権はメイリに手渡された。 「え、私? んんー? イモジン、かな。最初のザコって感じで」     
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