第三章 王国の人々

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 しょうがないなあ、と、彼は藻掻く主人の手を掴んで座らせた。 「どうしたもんかな。んー、浄化!」 「蒼一さん!?」  老人は大人しくなり、目を閉じたまま静かに立ち上がる。 「ほら、治った」 「そりゃそうですけど、何か白いのが出てます!」 「ありゃ、年寄りだと、半分成仏するのか」  抜け出しかけたエクトプラズムを戻すため、蒼一は主人の肩に手を置いた。 「気つけっ」 「もうちょっと! まだ口から餅みたいなのが見えます」 「気つけっ!」  主人の身体が跳ね、また床に座り込む。  入魂完遂を確認すると、勇者はメイリに主人の介抱を頼み、自身は買い物に取り掛かった。 「メイリ、オヤジに回復薬を飲ませといて」 「う、うん」 「雪はメモ用紙を。俺は携帯用のペンを探す」  墨壺とペンを組み合わせた一体型の携帯筆記具を見つけ、蒼一は代金に銀貨を数枚カウンターに載せる。 「紙代と合わせても、たっぷり釣りが出るだろ」 「一応、迷惑掛けた自覚はあるんですね」  失敬なと反論しつつ、彼は店を後にする。 「お金はいりませぬ」と店主は言っていたが、浄化の効果が残っていたせいだろう。 「魂って喉に詰まるんだな。気つけが有効、と」 「食べられるんですかねえ。餅味?」 「メイリに聞いてみろよ。魂っぽいの詰めてたぞ」  モチは食べたことないよ? と少女は首を傾げる。  墓地へ向かう道中の話題は、誤飲事故と地球の食べ物についてだった。
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