第三章 王国の人々

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「三代目の勇者様と共に旅をして、最後はここに置かれマシタ」 「いつの話だ、それ?」 「四百七十九年前デス」 「気が狂うな。話し相手くらい、用意してもらっとけ」  横に正座するメイリが手を挙げて、質問権を求める。 「気にせず()けよ。メイリは行儀良すぎる」 「あの、魔王ってどんなだったの?」 「国を滅ぼす魔。邪の権化。三代の勇者の力で、ようやく倒せた強敵デシタ」  壁画では、魔王は角の生えた巨人に描かれており、牛のようでもあった。  浮き彫りでは詳細は分からないので、強かったのだろうと想像するだけだ。 「それでさ。なんでお前は全然、動かないの?」 「動けないんデス。床から得る魔力では、話すダケで精一杯」  この大空間全体に、床から照射された魔力が満ちており、それが傀儡をここまで維持してきた。  本格的に起動するとなると、もっと強力な力が必要だ。 「どうすればいい?」 「勇者様なら、力を注ぐことができマス」 「あー、ボウガンの魔弾と同じ理屈か」  蒼一が黒い体に触れると、力が吸い込まれるのを感じる。  しばらくそのまま、彼は魔力を流れに任せた。  傀儡が自分の機能を確認するために、手足をパタパタと折り曲げ、また伸ばす。 「おっ、動けるようになったな。もういいか?」 「もう少しダケ。変形できるようになるマデ」  変形? 彼がその意味を聞こうとした時、雪が両手を床に投げ出し、うめき声を上げた。 「どうした!?」 「お、お腹が……空いて……」 「我慢しろ」  メイリが女神の栄養補給になりそうな食糧を求め、鞄を漁る。  蒼一は気を取り直し、黒傀儡に尋ねた。 「今、聞きたいことは、後二つ。まず、名前はあるのか?」 「ロウと呼ばれてイマシタ」 「よし、ロウ。変形って何だ?」 「ワタシの背中を持ってクダサイ」  傀儡の背中には、引き出しの取っ手のようなグリップが縦に付いていた。  人の手に合わせて作られたらしく、蒼一はガッチリとその取っ手を握り締める。 「では、変わりマス……」  ロウの身体は見た目より遥かに軽い。  彼が床から持ち上げると同時に、傀儡の手足が精妙に折り畳まれていった。  カチャンカチャンと小気味のよい機械音が、数瞬の間続く。  折り紙のように小さくなったロウは、湾曲した長方形の魔金属板に姿を変えた。 「やっぱり盾か!」
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