第三章 王国の人々

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 いるのは山鳥ワゾールの変種で、白い羽毛の家畜化した小型ワゾールだった。餌を求めて人に舞いたかる習性は、地球の鳩と似たようなものだ。 「おそらく、屋台で厚ハムを買って食べる気でしょう。昼はいつもそう」 「厚ハム?」  厚切りのハムを固焼きパンに挟んだものは、彼らも昼食にしたことがある。魔術師のお気に入りだと、ローゼは言う。 「これはチャンスです。好物を攻撃すれば、ネルハイムの精神力はズタボロですよ」 「そうなんだ……」  どうにも楽しそうに見えるローゼに、勇者も若干、引き気味だ。  蒼一は通りの向かいにいる雪たちに尾行を任せ、厚ハムの屋台へ先回りすることにした。  一本筋を変え、勇者と婚約者のチームは公園に急ぐ。 「しかし、好物を攻撃って、どうすんだよ」 「簡単ですわ。まず屋台の主人に頼んで――」  ローゼの立てた作戦通りに、屋台で坊主頭へ売る商品の工作を依頼する。  二人はネルハイムが座るベンチに見当を付け、監視できる茂みに身を隠した。  数分後、婚約者の予言に従い、魔術師は厚ハムを購入してベンチへ力無く座り込む。 「すげえな。全部、ローゼの言った通りだ」 「彼のことなら、何でも分かります」  屋台のオヤジは、ハムを普段より厚くサービスして、魔術師にほんの僅かな喜びを与えた。
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