第三章 王国の人々

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「馬鹿言え、今回はローゼの仕業だ」  これで何事も無く終わったら、単なるイケメン虐めだが、幸いなのかどうなのか、黒いガス状物質が池の上から漂って来る。 「来たぞ、悪霊だ!」  黒い霧は男の体に吸い込まれ、泣き呻く声はピタリと止まった。  ネルハイムに向かって走り出した蒼一は、街路から近付く別の黒霊を発見する。 「おうおう、大した吸引力だ」  勇者が到着した時には、池から一体、街路から二体、計三体のファズマが魔術師に取り憑いていた。  屋外の公園は、人通りも少なく、蒼一の攻撃には好都合だ。 「今度は逃がさねえ。浄化っ!」  目を剥き立ち上がったネルハイムを、白い光が包み込む。  勇者は更に聖なる光を連続発動した。 「浄化っ、浄化っ!」  体から飛び出そうとした悪霊へ、フラッシュのように光が浴びせられる。 「ぎぃぃあーっ!」  断末魔が三回、公園に響いた。  黒い影は小さな塵となって飛び散り、一瞬の魔光の煌めきを残し消え失せる。  操る者が離れると、ネルハイムはグニャリと膝を折って地面に倒れた。 「浄化できりゃ、大した敵でもねえ」 「お見事デス」  ローゼは昏倒する婚約者の元に跪き、その顔を覗く。
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