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「彼は大丈夫でしょうか?」
「心配すんな。しばらく言うことも坊主臭くなるだけだ」
悪霊相手だと、雪とメイリの出番は少ない。遅れてやって来た二人は、蒼一に首尾を尋ねた。
「上手く行った?」
「おう、三匹始末したぞ」
「もう、他にはいないんですかね」
悪霊がこれで全部という確証はなく、まだ作戦は続けなければいけない。
「ヤースに荷馬車を出してもらおう。ネルハイムを荷台に載せて、街を回る」
「私も荷台に乗ります!」
ローゼは同行し、婚約者を支えるつもりだ。
この街全域に亘る悪霊掃討戦は、午後、日が暮れるまで行われた。
◇
ギルドの用意した馬車は、さほど大きな物ではなかったため、雪とメイリには宿で留守番してもらう。
馬車の荷台には椅子を置き、そこにネルハイムを座らせる。その両脇に蒼一とローゼが立って、彼が倒れるのを防いだ。
大きな街を一周するため、余りのんびりとはしていられない。
結構な速さで、三人を乗せた馬車が街路を走る。
「みんな不審な顔をしてるな。手でも振ってやったらどうだ?」
「あっ、はい」
街でも評判のお嬢様と十八代勇者、そして二人に挟まれた白光りする頭。
蒼一とローゼがにこやかに手を振ると、事情は分からずとも、人々も懸命に両腕を振り返した。
浄化中でも、ネルハイムは餌として魅力的らしく、悪霊は次々とおびき寄せられる。
「浄化っ、浄化!」
蒼一が黒い影を追い払う度に、魔術師の頭部が輝いた。
いつしか住民たちは馬車を追って駆け出し、口々に勇者と仲間の偉業を讃える。
「ジョウカッ、ジョウカッ!」
「ネルハイム! ネルハイム!」
魔術師の名は、荷台から蒼一が叫んで教えた。
飴屋のオヤジまで並走し、白い頭を熱心に観察していたのは、新商品のためだろう。
ファズマ十五匹を倒し、馬車が宿に戻った時には、夕闇が一日の終わりを告げていた。
荷台を降りた蒼一へ、一人の男性が近付く。
「あの……勇者様、お待ちしておりました」
「ん、どうした?」
上品な服に身を包む初老の男は、白髪混じりの頭を深々と下げた。
「勇者様には、何とお礼申し上げてよいものか……」
男は街で唯一の孤児院の運営者で、身寄りの無い子を多数預かっていると言う。
中に一人、器量も知能も優秀ながら、奇病のため捨てられた少女がいた。
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