第三章 王国の人々

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「彼は大丈夫でしょうか?」 「心配すんな。しばらく言うことも坊主臭くなるだけだ」  悪霊相手だと、雪とメイリの出番は少ない。遅れてやって来た二人は、蒼一に首尾を尋ねた。 「上手く行った?」 「おう、三匹始末したぞ」 「もう、他にはいないんですかね」  悪霊がこれで全部という確証はなく、まだ作戦は続けなければいけない。 「ヤースに荷馬車を出してもらおう。ネルハイムを荷台に載せて、街を回る」 「私も荷台に乗ります!」  ローゼは同行し、婚約者を支えるつもりだ。  この街全域に亘る悪霊掃討戦は、午後、日が暮れるまで行われた。 ◇  ギルドの用意した馬車は、さほど大きな物ではなかったため、雪とメイリには宿で留守番してもらう。  馬車の荷台には椅子を置き、そこにネルハイムを座らせる。その両脇に蒼一とローゼが立って、彼が倒れるのを防いだ。  大きな街を一周するため、余りのんびりとはしていられない。  結構な速さで、三人を乗せた馬車が街路を走る。 「みんな不審な顔をしてるな。手でも振ってやったらどうだ?」 「あっ、はい」  街でも評判のお嬢様と十八代勇者、そして二人に挟まれた白光りする頭。  蒼一とローゼがにこやかに手を振ると、事情は分からずとも、人々も懸命に両腕を振り返した。  浄化中でも、ネルハイムは餌として魅力的らしく、悪霊は次々とおびき寄せられる。 「浄化っ、浄化!」  蒼一が黒い影を追い払う度に、魔術師の頭部が輝いた。  いつしか住民たちは馬車を追って駆け出し、口々に勇者と仲間の偉業を讃える。 「ジョウカッ、ジョウカッ!」 「ネルハイム! ネルハイム!」  魔術師の名は、荷台から蒼一が叫んで教えた。  飴屋のオヤジまで並走し、白い頭を熱心に観察していたのは、新商品のためだろう。  ファズマ十五匹を倒し、馬車が宿に戻った時には、夕闇が一日の終わりを告げていた。  荷台を降りた蒼一へ、一人の男性が近付く。 「あの……勇者様、お待ちしておりました」 「ん、どうした?」  上品な服に身を包む初老の男は、白髪混じりの頭を深々と下げた。 「勇者様には、何とお礼申し上げてよいものか……」  男は街で唯一の孤児院の運営者で、身寄りの無い子を多数預かっていると言う。  中に一人、器量も知能も優秀ながら、奇病のため捨てられた少女がいた。
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