第三章 王国の人々

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「本当に良い子なのです。しかし、髪が生えない、それだけの理由で親に見捨てられました」 「それも酷い話だな」 「全くです。人を外見で排除する愚かさ、それを打ち破って下さったのが勇者様です」 「う、うん……」  今回の勇者の教えを忘れぬために、院長は街の入り口に像を立てたいと申し出た。 「幸い、成功した院の卒業者からの寄附も有り、資金に心配はごさいません」 「んー、そういうことなら、今日一日頑張った、こいつにしたらどうだ?」  蒼一は荷台で座ったままのネルハイムを指す。 「夜光石で作ったら、光って灯台代わりにもなるし」 「確かに、この御頭は神々しい……」  そう言えば、街には勇者の日という祭日を作る計画もあると、ヤースの報告にあった。  それもネルハイムを讃えて、皆で頭を剃る日にすればいいんじゃないかな。  いつまでも礼を言い続ける院長を後にし、彼は雪たちが待つ食堂へ向かう。  意識朦朧としたネルハイムは、ロビーで休ませており、ローゼが面倒を見てくれていた。  首を傾げながら入ってきた蒼一を、雪が訝しく見る。 「悪霊退治は失敗ですか?」 「いや、それは上手く行った」  彼は孤児院の院長との会話を、雪たちに話した。 「悪霊を追っ払い、病気の子も喜んだ。今回は善いこといっぱいしましたね」 「そうなんだけど、人助け感が薄いのは何でだろ」  ウーンと悩んだ三人は、やはりネルハイムが復活してないのが原因だろうと結論付けた。  宿に頼んで、厚ハムを用意してもらい、蒼一たちはロビーの様子を窺う。 「どうだ、起きそうか?」 「光が消えましたし、もうすぐかと」 「気つけで起こすのも、可哀相かな」  彼が自然に目覚めるまで、ローゼも待つつもりだった。  蒼一は厚ハムをネルハイムの前に供え、両手を合わせる。 「メイリも、こういう奴を拝むといいぞ」 「うん!」  この日、ハルサキムには、いくつもの新しい風習が生まれた。  地蔵のような石像が街中にいくつも作られ、そこにハムが供えられるようになる。  白地蔵と名付けられたこの像を熱心に広めたのは、街の富豪、ユレイカル家だった。
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