第三章 王国の人々

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036. 勇者の結婚  ネルハイムが意識を取り戻すと、ローゼと蒼一に全てが狂言だったとバラされる。 「そういうこと、でしたか……」  心の平穏を取り戻した魔術師だったが、一日掛けて受けたショックは大きく、意気消沈したまま帰路についた。  本来この日は、ユレイカル家で義理の家族と晩餐の予定だったのだ。  正式な婚約予定が流れたことに、蒼一も多少、気の毒には感じていた。  ネルハイムの婚礼は、彼の気力が髪の毛と共に復活するまで待つしかない。  街中の悪霊がいなくなると、ワイギスの蓄魔器屋もようやく営業を再開する。  浄化パレードの翌朝、蒼一たちは開店直後の店を訪れた。 「いらっしゃいませ、ああっ、勇者様!」  店に立つのは、後頭部に布を当てた父親のカイルだ。 「頭は大丈夫なのか?」 「はい、もう痛みはありません」 「いや、中身の方なんだけど……正気みたいだな」  彼の来店を聞き付けたサナが、奥から顔を出す。彼女は赤いバンダナを頭に巻き、工作用の作業服を着ている。  親子は二人揃って、勇者へ改めて礼を述べた。 「そんな何度も頭を下げなくていいよ。今日は客で来たんだ」 「何なりとお申しつけ下さい」     
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