第三章 王国の人々

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 魔物相手に槍を振るう癖に、注射器が怖いってのも妙な話だ。  蒼一はメイリに落ち着くよう諭す。 「チクッとするだけだ。大したことない」 「でも、笑ってるよ!」 「そりゃ、怒り狂って注射はしねえよ」  彼女が怯えたのは、丸坊主のサナが満面の笑みで注射器を構えたからだ。  バンダナを外し、白い前掛けをした彼女は、狂気の看護婦にも見える。  だが、それを指摘するのはマズい。  坊主は笑うななどと言えば、また面倒臭いことになるのは、蒼一もメイリも分かっていた。 「これは痛くないですよ。魔法で体内の血液を吸い込む器具です。ふふふっ」 「あっ、その頭で笑うと、めちゃくちゃ怖いですよお。バンダナしときましょうよ」  故意なのかは知らないが、雪はたまに直球で暴言を吐く。  今度はサナの顔が凍りついた。 「恐くないよっ! 抜いて、血、ドバっと!」 「そうだ、恐いどころか、愛らしい。丸みが。行け、ドバっと抜け!」  メイリの差し出した右腕に器具が当てられる。  なんとか持ち直したサナは、血液を吸引し、ボウル型の容器に移した。 「ホントに痛く……あれっ?」  血を抜かれたメイリは、フラフラと床に座り込む。
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