第三章 王国の人々

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「貧血か? 本気で大量に抜く奴があるか。ドバっと構えて、チョロッと抜け」 「そんな……! ちゃんとチョロッとにしたのに」  実際のところ、多少、いつもより大量に採血した感はあった。サナは謝りつつ、父と血液検査に取り掛かる。  部屋の隅にあった長椅子にメイリを休ませて、蒼一たちは検査の結果を待った。 「メイリはよく倒れるよな。気も失うし」 「最初に会った時も、倒れてましたね」 「体が弱いのかな……」  横になって弱音を吐く少女に、血を調べ終わったカイルが報告に来る。 「体調の問題じゃないね。魔力が少な過ぎるんだ。スッカラカンじゃないか」 「それも珍しいのか?」 「普通は周囲から自然に補充するんだ。この娘さんは、その量以上に放出しとるんだろう」  体から出る魔力を吸う蓄魔器は、すぐに店の在庫から用意してくれた。  若い女性にということで、ペンダント型のアクセサリーに加工した人気商品だ。 「助かるよ。いくらだ?」 「代金は要りません。お礼です」 「すまないな。遠慮無く頂くとするよ」  早速、メイリは首を出し、雪にペンダントを付けてもらう。 「放出分は、それで吸収できます。しかし、魔力を補充しなければ、健全な状態とは言えませんよ」 「霊酒でも飲ませるかな……」  そんな物を持ってるのかと、カイルは驚くが、治療法としてはいただけないらしい。 「一時的な方法ではなく、常に補充する必要があるでしょう」 「いい解決策があるのか?」 「有るには有るのですが……」 「なんだ、ハッキリしねえな。とりあえず言ってみろよ」  サナに頼み、父親は紙とペンを用意させた。  手紙と地図を書き、蒼一に訪ねるべき店を教える。 「ここで相談してみてください。私の紹介文を見せれば、通じます」 「何の店だ、ここ?」 「婚礼用品店です」  ――誰が結婚するの? 俺? マジカル?  疑問を撒き散らしながら、蒼一は言われた店に向かった。 ◇  ワイギスの店から歩いて十五分ほどで、そのカラリヤ婚礼用品店に着く。  勇者一行を見て、若い店員と女店主のカラリヤ本人が飛び出て来た。 「勇者様! どちらとご結婚されるので? やはり女神様と?」 「違う、手紙を読んでくれ」  ややこしくなりそうな雰囲気に、蒼一は身構える。大体、店のファンシーで幸せそうな装飾は、彼の神経を無闇に逆撫でた。
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