第一章 勇者

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 フォークを待つ間、二人は天井を見上げて会話を続ける。 「……行くしかねーよな?」 「そうみたい。この部屋から、さっさと出たいです」 「ヒゲ、胡散臭いしな」  伸びていても、坦々麺は美味かった。  支度金と装備を手に入れると、二人は挨拶もそこそこに城を出る。  十八回目ともなると、王国も手際がいい。テーブルに置いてあった本は、勇者のためのマニュアルだった。  外は夜かと思いきや、まだ午前中らしい。  城の前に並ぶ歴代勇者の石像が、蒼一たちの旅立ちを見送る中、彼らはマニュアルを片手に、ナグサの森を目指したのだった。 ◇ 「とりあえず、その勇者の能力ってのを手に入れとこう」 「うーん、これ……選択制みたいですよ」 「自分で選ぶのか?」  巻物の記載の大半は、この能力一覧で埋まっていた。  蒼一は勇者マニュアルをパラパラとめくる。  第二章、勇者の能力。 「……あった。能力は女神が選び、勇者に与えます。小さく消えそうな文字は、既に選ばれた力です。大きく記載された物に、女神が力を注いでください」  二人には、嫌な予感しかしない。  雪が目を凝らして、リストを追っている。 「なんでかスラスラ読めるけど、効果がイマイチ分からない……」 「ファイアーとか火炎とか無いのか。いきなり魔物が出たら洒落にならん」 「火炎、火炎壁、火炎弾、極大火炎……」 「火炎弾だ。使いやすそう」  雪が溜め息をつく。 「今のは全部売り切れです」  そう来るか。このリスト、歴代の十八人で共有してるとは。 「あとは……雷、氷、水、風なんてのは?」  彼の出す単語に、雪は一々首を振って否定する。 「全て灰色になって、消えかかってます」 「じゃあ、何ならあるんだよ? 試しに読み上げてくれ」  雪が巻物を半分以上先送りし、読めるリストを声に出す。 「跳ねる、見極める、(にら)む、寝る……」 「やる気無さ過ぎだろ。攻撃っぽいのは?」  彼女の目が巻物をさ迷う。  しばらくして、いくつか候補を挙げた。 「(おぼろ)、分離、月影(つきかげ)、地走り……」 「急に分かりづらくなったな。月影ってなんだろう?」 「剣術のところに載ってます。地走りがいいんじゃないかな? 地属性っぽい」  地震とかの仲間であろうか。城でロングソードは貰っているので、月影も使えそうだ。
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