第一章 勇者

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002. 聖剣  サーラムは王都の外れにある小さな街だ。  大街道からは遠く、定住者も少ないが、賑わいだけは立派なものである。  この街の外にはナグサの深い森が広がり、恰好の狩りと腕試しの場所になっている。  剣士志望や新米狩人は、まずここを目指す者が多く、それが街の活気に貢献していた。  通りに並ぶ店も、宿屋や酒場、装備品や遠征用の食糧を売る商店など、冒険の拠点に相応しいものばかりだ。 「絶対に要るのは食べ物か。先に買っとこう」  蒼一の提案で、二人は異国の食糧を試食して回る。 「縁日みたいで、楽しいですねえ、蒼一さん」 「蒼一でいい。保存のできそうなのを選べよ。そのチクワみたいなの、美味いけどさ」  チクワと言うより、きりたんぽが近いか。串に刺した練り物は、甘辛いタレが日本人好みだった。  雪は両手に一本ずつ持って、食べながら歩いている。女神にと屋台のオヤジが一本無料でくれたところ、雪が勇者の分は無いのかともう一本強奪したものだ。  街の外れまで通りを歩き切ると、大きな宿屋が呼び込みをしていた。     
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