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親族の誰しもが男を「あの」とか「あれ」と呼んでいたため、葬儀ではじめて男の名を知った。そして弔辞で祖父が「この度は兄の……」と言うのを聞き、驚いた。生前の扱いも奇妙だったが、なにより死んだ男の姿は祖父より年嵩だとは到底思えなかったからだ。春子さんには父と同世代か、少し上くらいに見えていた。
祖父の名には「一」の字が入っており、当然長男なのだと思っていた。そして男の名に漢数字はない。男が死んでずいぶん年を経てから、ふとしたおりに疑問を口にすると、近頃いっそう祖父の面影を濃くする父が語ってくれた。
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