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ある日、携帯に公衆電話からの着信が何度もかかってきた。
6度目の着信の後、留守番電話サービスにメッセージが保存された。
「………お母さん、迎えに来て」
嗚咽混じりの少女の声は、何とも気味が悪かった。
午後になっても、メッセージは溜まっていく。
「お母さん、どうして電話に出ないの」
「迎えに来れないの」
「帰れなくなっちゃうよ」
「とにかく駅で待ってるから」
留守番電話にはそんな言葉が残されていた。
恐らく携帯を忘れた子どもが、公衆電話から母親に掛けようとして間違えたのだろう。
頭の中でそう解釈したが、聞いていて気分の良いものではない。
今度着信があった時には、必ず取って間違いを正してしまおう。
そう思ったが、それきり着信は掛かってこなかった。
終電間近の駅にタクシーで滑り込み、改札を抜けて慌ただしく階段を降りている時だった。
人身事故による電車遅延のアナウンスが、人気の少ないプラットフォームに響いた。
気が抜けてその場にしゃがみ込んだ所で、携帯に着信がかかってきた。
あの公衆電話からだった
通話ボタンを押して携帯を耳に押し当てると、若干声が明るくなった彼女の声が聞こえてきた。
「お母さん!」
電話番号が違っている。
そう伝えようとした時の事だった。
「遅かったね、待ってたんだから」
電話の向こうからは、電車遅延のアナウンスが少し遅れて聞こえてきた。
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