117人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話 雨の休日
じめじめとしたこの季節ならではの雨が降る日曜日、俺はいつもの場所に居た。駅から遠く離れ、緑に溢れる公園を抜けたその奥にひっそりと佇むカフェがその場所だ。扉には小さな四角いアイアンプレートに控えめに彫られた、ツナギツナガリツナグという文字。そのやたらと長い呪文のような名前の店にもうかれこれ1年以上通っている。
「長くねぇか?早口言葉みたいで噛みそうになる。」
いつものように定位置である店の奥のカウンターに座り、ホットコーヒーを片手にダークブラウンの台紙に金色で華奢な文字が刻まれたショップカードを見つめながら洸平は言った。
「そうかな?長いのは長いと思うけど……だから常連さんの間じゃツナツナって呼ばれてるよ!」
洸平の隣に座っていた朱莉は洸平の持つショップカードを指でなぞるとそう言った。
「ツナツナ……それを言うならツナツナツナじゃねーの?」
「それだと語呂悪いじゃん。」
「じゃぁツナスリー!」
「え、ダサ……」
顔をしかめながらそう言う朱莉に洸平は傷付いたと言わんばかりに大袈裟な表情をして見せる。そんな二人の会話をカウンターの中で聞きながら柊平は思わず笑みをこぼす。
「おまえなぁ……傷付く事言うなよ!この店の名前は晶が決めたんだっけ?そういや、晶って学生ん時から変わった名前付けるの好きだったな……。」
「例えば?」
「夕日見てその日によって名前付けたり。見て!今日はオレンジグリーンシャーベットだね!とか。なぁ柊平?」
「うん。ソーダクリームスペシャルとかもあったよね?」
「そうそう!どこがスペシャルなのか聞いたら、なんとなく……なんて答えるからこっちはもう頭ん中ハテナマークだらけ。」
「ふーん。でも何となくわかる。そんな夕日の時ある!」
ふんふんと頷きながら答える朱莉を見て、その姿が晶と重なって見えた。似てるんだよなぁ……見た目とかじゃなくて内面的なものが晶と朱莉には通づる所がある。
「朱莉……流石だな。」
「ふふ、ありがとう!」
「いや、別に褒めてる訳じゃなくて……まぁいいや。所でこんな雨の日にどこ行くんだ?」
いつもより少しオシャレをし、浮かれた様子の朱莉を見て洸平は言った。
「雨の日だから行く場所に行く!」
「え?……何それ?どこだよ?」
自信満々に答える朱莉に洸平がそう返すと朱莉は驚いたような表情で言葉を続ける。
最初のコメントを投稿しよう!