第1話 雨の休日

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晶が死んで1年が過ぎた。あの日、晶の思いと柊平の想いを知った俺はとても混乱していた。そして10年振りの再会と隠されていた真実というある意味ドラマチックな展開に少しばかり酔っていたのだと思う。 3人で店に戻った後、温かいコーヒーを飲んでいたらだんだんと我に返り、気まづいやら恥ずかしいやらで暫くの間俺も柊平も黙っていたのだけれど、朱莉のお陰でポツリポツリと会話が始まりいつの間にか10年という時間を取り戻すかのように夢中になって話をしていた。 柊平がずっと言いたかった事を聞いてやる。なんて言ったくせに、俺はその話を振る勇気もなくて、柊平も何も言う事はなく、そのままその話はうやむやにされてしまった。 俺たちはずっと晶との昔話に花を咲かせ、楽しい時間を過ごした。時折、柊平が見せる悲しそうな表情をかき消すように俺は終始柊平を笑わせるような話ばかりをしていた。あの頃みたいに。ひとしきり話をした後、また来るよ。と言って俺は店を出た。 そしてまた直ぐに店を訪れるとその頻度は徐々に増えていき、1年経った今では週に一度は必ず訪れるまでになっていた。 俺と柊平は相変わらず、ずっと親友のままだ。その関係性が揺らぐ事は無かったけれど、俺の事が好きなんだろうなという事はちょっとした言動や仕草でひしひしと伝わって来ていた。 その事に気付きつつも何も行動を起こせない自分と柊平をもどかしく感じ始めていた。 「予定があったら来ねーよ。」 「そりゃそうだな。」 柊平は含みを持たせたような笑みを向けるとまたすぐにグラスへと視線を移した。俺は苦笑いを浮かべ頭をかいた後、何とも言えないもどかしい気持ちをぬるくなったコーヒーと共に無理やり喉の奥へと流し込んだ。 こういったやり取りを1年の間にもう何度も続けている。 柊平は一体何を考えているのだろうか…俺に恋人がいるのか否か、聞きたいのはきっとそういう類の話なのだろうけど。 もういっそのことハッキリと告白をしてくれたら……そうしたら俺は……そうしたら……俺は…… どうするんだ?
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