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漆黒の闇が少女を出迎える。
すでに時化は止んでおり、雨も小雨に変わっていた。
心持ち波も小さいが、それでも小さな脱出艇には脅威である。
四方は真っ暗で、肉眼では何も見えない。
ハッチから僅かに漏れる、室内灯だけが頼りであった。
「くそっ! 何処だ?」
暗闇に目を凝らして、少女が必死に仲間を探していた。
遥か彼方が小さく光っているも、脱出艇からは遠すぎて何が何やら分からない。
「何かないのか、何か……。これだ!」
少女が脱出艇の荷物を漁ると、双眼鏡が見つかった。
「どうなっている?」
少女が双眼鏡を覗いた。
「なななっ?」
目に飛び込んできた光景に、少女が戦慄いた。
――砲艦が炎に包まれている。
傾いた艦体に轟々と燃え盛る甲板、さらには煙に包まれたブリッジである。それらは全て、戦闘の激しさを物語っていた。
これ見よがしに横付けしている敵艦が、必要以上に憎らしく少女には見えた。
「すまない! 私のために……」
もう会えない仲間を想って、少女が涙に暮れた。
「ええい! もはやこれまで!」
少女が佩いている飾剣に手をやった。
刀身がすらりと抜き放たれる。
あくまで儀礼用の剣である以上、肉厚は薄く実戦には向かない。
それでも、自刃には事足りる。
大海原で、少女一人が生き残ることは難しい。
その上、敵に捕まれば、辱めも受けかねない。
少女が潔く首に刃を立てようとした時、波浪が脱出艇を襲った。
「わわわっ! 危な……ぎゃっ!」
手元が狂い、うっかり自分の手を切る少女であった。
「……うん、自殺はよくないな。何より死んでいった者たちに、申し訳が立たない」
滴る血を見て、少女が考えを改める。
「生き延びてやる。絶対生き延びて、いつの日か雪辱を晴らしてやる。それまで、首を洗って待っておれ!」
少女は拳を振り回し、敵に向かって宣戦布告する。
もちろん相手に聞こえるわけはないのが、自己満足には十分である。
「痛たたた……。おっと、いかんいかん。救急箱はどこだ」
傷口に走った痛みに、少女が身を引っ込めた。
脱出艇のハッチがバタンと閉じられる。
海面を照らす光が消え、敵から見つかるリスクが減った。
再び波が高くなる。
暗闇の海原を、脱出艇は孤独に流離い始めた。
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