第二章 漂流と救助

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第二章 漂流と救助

 天気晴朗かつ波は低い。  そんな雲一つ無いカンカン照りの大海原は、陸の砂漠と大して変わらない。  人間は決して、海水を飲めるように出来てはいない。  今、そんな過酷な大海原を、少女の脱出艇がぽつねんと浮かんでいた。 「あ、暑い……」  乾ききった少女が、脱出艇の上で寝そべっている。  その頬はすっかりこけており、キューティクルに富んでいた長髪は、潮風に晒されてボサボサであった。  全てが、漂流生活の過酷さを物語っていた。  脱出艇の内部は蒸しており、とても居られたものではない。  ついでに言えば、保存食の類は尽き果てていた。 「お、かかった!」  少女が釣り糸を、素手で引っ張った。  ちなみにこれは、竿を使わない手釣りである。  果たして、少女は三十センチほどの青魚を釣り上げた。 「イナダか……」  魚を釣り上げて、少女が言った次の瞬間である。 「いただきます!」  少女が生のまま、魚にむしゃぶりついた。  少女の行っている生食は、本来危険な行為と言えた。  生の魚には、常に寄生虫のリスクが付きまとうからである。  だがしかし、この場合、少女の判断は正しかった。  危険な寄生虫の代表格アニサキスは、主にサバやイカに付く。  少女の釣り上げたイナダはブリの子供であり、比較的安全な魚類であった。  そもそもの話、脱出艇の設備は満足のいくものではない。魚を冷凍することはおろか、煮ることも焼くことすらもままならない。  さらに言えば、栄養の問題である。  少女の漂流生活は実に長く、既に二週間が経っていた。  この少女とて、器具さえ揃っていれば魚を焼いたに違いない。  しかしながら、今の状況は食べ物を魚に依存している。  焼き魚だけでは、ビタミン欠乏は明白で、脚気に罹患する虞があった。  そうなれば最悪、心不全を起こして死ぬしかない。  全くのノーリスクでこそないが、この生食がベターであることに、間違いはなかった。  もっとも、少女が冷静に状況を分析したわけではない。  単に空腹に耐えかねて、恥も外聞もなくなっただけである。  とどのつまり、運が良かった少女であった。
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