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「ふう。さてと……」
久しぶりの食事を終えて、少女が双眼鏡を手に取った。
「今日も今日とて、変わり映えなしか……」
一面に広がる海原に、少女が溜息をつく。
少女の視線の先は、見渡す限りの青色が広がっていた。
ともすれば、空と海の境目すら分からない程である。
この二週間、船はおろか島影にすら少女は出くわさなかった。
それどころか、海鳥の一羽すら見かけない。
これはすなわち、近くに陸地がないことを意味している。
「はあ……」
ため息をつきながら、少女は当て所もなく水平線を覗き続けた。
水の備蓄は残り僅かである。
食糧はともかくとして、これだけはどうにもならない。
乾きは死に直結する以上、少女は焦っていた。
人間は食糧が無くとも三週間は大丈夫だったりするが、水が無ければ三日と保たない。
「あの時、敵に降りておくべきだったかな」
少女は後悔した。
しかし、すぐに「いやいや」と首を振って、邪念を振り払う。
情け容赦なく、味方を塵殺した敵である。その様な輩に身を預けたところで、先は見えていた。
「何を弱気になっているのだ私は……」
気を持ち直して、少女がもう一度双眼鏡を覗く。
その時である。
「あれ?」
少女の視界に何かが映った。
遠くのそれは、奇妙な物体であった。
平面ばかりで構成され、言ってみれば歪な多面体である。
白いそれは前後に細長く出来ており、かろうじて船と見えた。
慌てて、少女が脱出艇に潜り込む。
次に出てきた時、少女の手には信号拳銃が握られていた。
「それっ!」
躊躇なく、少女が引き金を引く。
煙の尾を引いて、光弾が天に昇っていった。
だがしかし、船は少女に気づく素振りを見せない。
そのまま船は、見当違いの方向へと進んでいく。
「くそっ!」
少女が悪態をつく。
まさしく千載一遇のチャンスである。
少女は肉体的にも、精神的にも限界であった。
事態は一刻の猶予も許されない。
「気付いてくれ!」
少女は残弾を惜しまず、全て撃ち尽くすことにした。
「頼むっ!」
最後の弾を撃った直後、船首が少女の方を向いた。
「やった! おーい、ここだ! ここだ!」
少女は上着を振って、船に呼びかけた。
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