序章 始動

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序章 始動

 真っ暗だったその部屋に、次々に灯りが点いていく。  電子音がポーンと響いて、冷却ファンがブンと唸りを上げた。  部屋は存外に広く、コンピューターの制御卓(コンソール)や実験器具が並んでいた。  だがしかし、人影は一切見当たらない。床には一面薄っすらと、埃が積もっている。  誰もいない部屋の片隅に、棺のようなカプセルが一つ置かれていた。  そのカプセルの蓋が今、ブシューと排気音を立てて、上に開いていく。  夥しい量の蒸気が、蓋の隙間から噴き出した。  蓋が開いてみれば、中では全裸の美女が横たわっている。  抜群な器量の美女であるが、透き通る白い肌と銀髪は、どこか人間離れしていた。 「うん……」  美女が目を開けて、ゆっくりと身体を起こした。その瞳はこれまた真っ赤である。 「自己診断ルーチンを実行します。……診断終了。各部正常に機能しております。問題ありません」  美女が独りごちる。 「さてと」  立ち上がった美女は、カプセルから身を乗り出した。  あられもない姿のまま、美女は制御卓(コンソール)へと足を運ぶ。 「はて? システムがダウンした形跡がありますね」  キーボードに指を走らせて、美女が首を傾げた。 「とにかく、ここはマニュアル通りに……」  疑問を脇に置いて、美女がマイクに向かう。 「おはようございます」 『……ああ、おはよう』  美女が言うと、スピーカーから声がした。 「ご無事のようで、何よりです」 『うん? まあね』  安否を確認する、声と美女である。 「では、当初の予定通り仕事にかかりましょう」 『……えっと、何だっけ?』  美女が言うも、声は要領を得ない。 「ご自分の役目をお忘れですか? 除染作業から取り掛かるべきでは?」  美女が問いただした。 『……ああ! そうだった、そうだった』  一拍置いて、声が納得する。 『それでは、早速準備に取り掛かろう』  仰々しく声が宣言した。  しかしである。時間が経っても、別段何も起こらない。 『……あれ?』 「どうしました?」  まごつく声に、美女が理由を聞いた。 『メモリーを損傷しているな』 「え?」 『そもそもの話、何かあったっけ?』 「……」  声の疑問に、美女は沈黙で答えた。  静けが流れる部屋で、美女はいつまでも立ち尽くしていた。     
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