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ボクは、ソファの上で、ついさっき散らかしまくったリビングをゆっくり眺めた。やばい、チサが帰ったら、きっとどやされる……。
何かいい考えは無いかと耳の裏を掻いていると、チサが大事にしている本棚の隅に、ほこり叩きを見つけた。
ちょっとは片付くかもしれないと思い、その位置まで、ちょうど子供が地面を踏まない遊びをするように、テーブルの上や棚の縁を上手く渡って、ほこり叩きに足を伸ばした。
ボクが触れた瞬間、ほこり叩きは、羽根でできたふわふわしたところを揺らしながら、まるで蝶々のように床に舞い落ちて行った。その姿はとても魅力的で、ボクの野生の本能を逆なでした。
ボクは床に飛び降り、落ちた衝撃で跳ね回る蝶々を捕まえた。これは蝶々だ! 時には自分で弾いてみて、動かない蝶々に生命を宿しては、本棚の本が落ちることも構わず遊び倒した。
数分後、ボクは、クッションの上で、今しがたびりびりに千切ったほこり叩きとチサの本をじっくり眺めた。今度こそ、確実にチサに怒られる……。
その時、玄関の方で鍵穴が回される音がした。チサが帰って来たのだ。
ボクに喋りかけながらリビングに入ってくる。
「ただいま~。今日はちゃんといい子に……って、いやあああ!」
チサは仰天の悲鳴を上げ、この惨状の犯人であるボクを、憤怒の目で捉えた。そして、ボクの首根っこを掴み、でも、いつものように優しい口調でたしなめた。
「もう、またやったの。大人しく待ってなさいっていつも言ってるでしょ?」
ボクは、できるだけ申し訳無さそうに、目をくりくりさせてチサを見つめた。待つ待つ。次は耳かきの綿で我慢する。
チサは、お説教の後にいつもボクにこう聞く。
「本当に分かってるのかなぁ……。返事は?」
だから、ボクもいつも、誠意を持ってこう答える。
「ニャー」
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