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「失恋、そんなの好都合です」
「覚えてない?ふざけるな」
綺麗に弧を描いた唇から聞こえてきた言葉は綺麗とはかけ離れた言葉で。
えーと、なぜ私はいま、知らない男性に罵倒されているのだろうか。
「佐倉唯人、覚えてない?」
「……すみません、全く」
名前を聞いてもさっぱり思い出せず、本当にいままで会ったことのある人なら私はだいぶ失礼な奴だなと自分で思った。
しかも初恋だなんて、なかなかに突拍子もない告白を受け、正直なにがなんだかこの状況が理解できない。
このイケメンの初恋相手が私。いや、いや、そんなバカな。
そもそも、百歩譲って初恋の相手だったとしても、それは昔の話で、いまこの人が私の目の前にいることとなんの関係もないはずだ。
「あの、本当にすみません。いつお会いしているか教えていただいても……?」
お客さんの減った店内で、「はぁ」と盛大にため息を吐き出され、どうやら私の言葉は彼のイライラを増長させてしまったらしく、
「お願いされなくても、嫌でも思い出させてやるよ」
「え、」
「もう仕事終わりだろ。とりあえず、俺に付き合え」
「飯に行くぞ」と、半ば強引に手首を掴まれ思い切り引かれる。
いや、ちょっと全然頭が追いつかないよ。ねぇ。
引かれるがままに彼の背中を追いかけた。
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