「早く俺を思い出せよ」

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「え、」 「え、」 私と同じ反応をしたその人とバッチリ視線が重なった。 まさかこんなところで会うなんて。 「え、なずな昨日の人だよね!なんで、なんで!」とはしゃぐ香澄はとりあえず無視して。 「びっくりだな、まさかこんなところで会うなんて」 低い声音が私に向かって柔らかく言葉を紡ぐ。その声と表情でさえ綺麗でなんともずるい。 「なずな、もしかして」 「……?」 「俺のこと思い出したのか?」 と、ハッとした表情をした彼は、女性のお客さんばかりの店内で一際目立っている。 「いえ、あの、全く……」 思い出せないものは思い出せないのに……。 こんなところに来ているくらいだ、彼女のひとりやふたりいるに違いない。そのお顔なら選び放題な人生だろうに。なんて、ひん曲がった発想をしてしまう。 「なんで、あなたがこんなところにいるんですか?あ、彼女さんへのプレゼントかなにかを買いに来られたんですか?」 「彼女なんかいない」 今日は黒のスーツを身に纏っている彼。 私の可愛さのカケラもない嫌味を含んだ質問に少し不機嫌そうに答えながらネクタイを整える仕草を見せた。 昨日突然現れ、初恋だ!と訳の分からないことを言い、仕舞いには私を拉致した、確か名前は佐倉さん……?
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