「覚えてない?ふざけるな」

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「へぇー、お客さんか。でも、千葉と東京で若干の遠距離でしょ」 「うん。会いに行くのに2時間くらいかかるみたい」 「じゃ、奪っちゃえば?」 「そんなの無理だよ」 「なんで?」 カフェオレをズズッと飲み終えた香澄は大きな瞳を輝かせながら「略奪愛って燃えない?」なんて不道徳なことを言い出す。 できるわけないじゃないか。 だって、森坂店長は、 「その彼女さんと、結婚したいんだって」 「え……」 「この店で数字上げて本社に行くのが目標で、そうなったら彼女にプロポーズしたいんだって」 「ごめん」と呟いた香澄に「勝手に片想いして、勝手に失恋してるだけだから気にしないで」と笑みを含んだ声音で答えた。 なにも知らないでただ、好きになって。よく考えたら私は、森坂店長のことをなにも知らない。 好きな食べ物は?好きな歌手は?怖いものってあるのかな? そういえば、なんで好きになったんだっけ? 仕事のミスをかばってくれたから。 落ち込んでる時は優しく話を聞いてくれて。 遅番の日は一緒に駅まで帰ったり。 そんなの、店長からしたら同じ店の部下だから当たり前のことなのに。なんて、冷静になって考えたらあまりにもペラペラな自分の好きという気持ちに恥ずかしくなった。
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